天性の芸術というのがあり、山下清とか金澤翔子のように あくまでも清らかな心を持ちそれを表現する環境ときっかけを得て 活躍する人もあります。 しかし、多くの場合はたゆまぬ努力の積み重ねでにじみ出てくるような 技術的にも磨かれた芸術を目指さなければなりません。 ところが近年はインスタレーションなどが注目を浴びて パフォーマンス的というか努力よりもセンスでこなす芸術が主流です。 もともと日本にはお茶やお花のような「整える」タイプのアートがあり 入って行きやすい環境と受け入れる「こころ」が既に存在していたのです。 ともすれば職人芸的な努力を否定してしまうこの種のアートの氾濫は デッサンなど美術の基礎をおろそかにする傾向を生んでしまいます。 受け手のレベルの低下がその傾向に拍車をかけるという悪循環が発生する 大きな危険性を持っているのです。 そしてブログやツイッターによる大量の評論家の発生です。 過去の雑誌に書いていた評論家がレベルが高いとは言えない場合もあるので 一概に言い切るのは暴言ですが、はっきり言ってツイッターは芸術に 何の貢献もなかったのです。 大衆化は革命であったのですが感性に乏しい発言を容認してしまいました。 あるジャズミュージシャンの嘆きを読みました。 聴き手のレベルが低くて、勉強が足りないからジャズの文化が浅いものに なっていると危惧しています。 聴き手というのはよく読むと聴衆というかファンより、むしろ評論家の事を指しているようです。 70年代にはスイングジャーナル誌上で喧々諤々の議論があって読み物としても 面白かったし、それで日本のジャズが大きく進歩したのは確かです。 スイングジャーナルも2010年に休刊してジャズ評論というのは事実上消滅したのです。 語り合う場がツイッターやブログのコメントとか2ちゃんねるに成り下がっては ジャズの発展は期待できません。 先ずは、有能なジャズの評論家が多く出現する事が望ましいし、そういう人達の 活躍の場を整備する必要もあります。 こういった状況は何もジャズに限った現象ではなくてあらゆる事柄に 当てはまるのではないでしょうか。 コンサートのレポートならまだ数多くありますが、展覧会のレポートは ほんとうに低レベルなものばかりで読む気にもならない文章ばかりです。 結局、勢いのある押しの強いアーティストが表面に出てきて、 深い芸術を追求している面白い人が紹介される可能性は皆無です。 美術評論というのはよく知りませんが、文芸評論なら昭和の初めに まだ「批評」と言われた頃、保田與重郎師が大きくこの分野の進歩に 貢献したのは、まさに知る人ぞ知る話です。 オーディオ評論では保田師の弟子の五味康祐が先駆けであったのは 今も多くの人が知っています。 音楽評論なら先日書いた吉田秀和、自動車評論は小林彰太郎です。 ジャズの評論家は誰だったのでしょう。 油井正一、岩波洋三、瀬川昌久、植草甚一、寺島靖国・・・そんな人達でしょうか。 自動車やオーディオのように海外の贅沢な製品に理想を置いて 国内産業の向上に大きなアドバイスを与え続けたという 評論家にとって夢のような時代がありました。 今は日本が世界のトップに立ってしまったので評論の拠り所を失っているようです。 おそらくジャズもそういう部分があるのではないかと私は考えます。 美術評論がぱっとしないのも何処かに行き詰まりがあって 「仮想的目標」の定義、設定が出来ないから何を書いても 虚しい空気が漂ってしまうのが原因です。 むしろ「評論」のレベル向上を真剣に語り合うのが重要です。
by tatakibori
| 2012-06-08 11:44
| アート
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