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思想家

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千坂恭二「思想としてのファシズム-大東亜戦争と1968」彩流社2015

ネット上では左派も右派も自分が心地よく思える情報を貪るように探し、
それをSNS上にリンクして再発信し、それによって埋め尽くされた感さえあります。
多くの評論家は糧を得るために「常客」の喜びそうな情報を美味しく料理して、
講演会や単行本で稼ごうと努力しています。
大手新聞社まで左右に分かれる事により支持者を作って売り上げの基本に
するような戦略にすっかり変わってしまいました。

千坂恭二は思想的に両極端である人々へ向けて語りかけています。
おそらくどちらの人も心地よい言葉をこの中に捜す事が出来ます。
かといってテレビで見かけるような名のある評論家、学者とは
違いかなりストイックな生き方を貫いてきたようで、
その心地よさは糧を得るための手段とは違います。
資格も職業も持たない在野の(権力に近寄らない)本物の革命家
なのだろうと思います。
私には言葉の定義が良く分からない部分もあるのですが、
この本は「評論」ではなく「思想」が書いてあります。

1968年は1950年生れの彼にとっては18歳という多感な時期であり、
「全学連」と「全共闘」の節目であったのです。
その節目から始まるアナーキストの闘争から見れば、
戦前を否定する事に主眼をおいた戦後リベラルという
民主主義は意味を持たなくなります。
それこそ連合国・アメリカの思うつぼに嵌っているからです。
むしろ否定されてきた、ナチスや中野正剛(東方会)の
ファシズムを丹念に読み取る事により日本発の世界革命を
起こすのが彼の思想のようです。
前回の当ブログに書いた「デモに参加する学生が、
デモに人生の希望を見出した」のは本来戦勝国に
押し付けられた価値観である「個人主義の幸福」よりも
「幸福」に対する「使命」が「希望」になってくるから
だろうと、この本を読んで私は思いました。
多くの左派によるニヒリズム的論調とは一線を画す
「希望」に満ちた「暴力革命」というのがあるかもしれないと
思わせてくれる不思議な話です。
千坂は「戦後最年少のイデオローグ」と言われたのですから、
その思想は彼から始まるものです。

「連合赤軍」「日本赤軍」「古今集」「吉本隆明」「蓮田善明」
「保田與重郎」「三島由紀夫」「日本浪漫派」「南北朝時代」
「ハイデッガー」「ユンガー」など多少は知っている
キーワードに助けられましたが、そういうのに無縁の人は
かなり読みづらい本です。



by tatakibori | 2015-09-28 16:38 | 読書
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